バーチャル ノベル 『白園のシャーロット』

バーチャル ノベル 『白園のシャーロット』
第三輪『夢のようなひととき』




バーチャルワールド『New world 4.0』。
昨今、現実世界での生活を捨てて仮想世界で生きようとする者がいることを問題視するようなニュースを見たが、その者の気持ちが少しだけ分かった。

「…………」

耳にはチュンチュンと囀る雀の声。
眠るには少々暑苦しさを覚えるほどの朝の光。

「朝、か……?」

ほどよくを通り越してもなお温まり続ける体に、
かけてきている人間の怒り模様のように震え続けるスマートフォン。

「あ……遅刻……」

私はようやく出社時間まで寝ていたことに気がついた。
昨晩の夢のようなひとときから覚めたくないと言わんばかりに眠っていたのだ。




喫茶インスタンス『side of well』
毎夜ただ他愛のない話をするために集まる場に私はいた。

「それでね、この前――」
「そんなことがあったんだ――」

深夜三時三十分。週の半ばにおいてはこの時間に起きているものはほぼ皆無ななか、
私たち二人は未だに話し込んでいた。

「えへへ。それでね、今度――」
「へぇ~、私も行ってみようかなー―」

無邪気な笑みを浮かべる少女――”凪(Nagi)”
いつも多くの人に囲まれている彼女と、
普段は遠くから笑っている姿を眺める事しかできなかった彼女と、
二人だけで話をしていた。

きっかけはあのオリジナルアバター……『幸せの美少女アバター』だった。
正直、あの噂について半信半疑だったのだけど、この姿でインスタンスに入った途端に集まったみんなの視線、
そして――

「それにしても、やっぱり可愛いねぇ~。また一緒にお話ししたいな」
「い、良いんですかっ!?」
「もちろんっ。今度は二人きりでお話、してみたいかも」
「ふぇっ!?」
「えへへ~。フレンド送っちゃおーっと――」

なんの面識もなかった、検索件数ゼロ件だったはずの私に向ける彼女の関心を見ると、信じざるを得なかった。

「ふわぁ……そろそろ寝なきゃね」
「えっ? あ、もうこんな時間……」
「えへへ……久しぶりに時間を忘れておしゃべりしちゃった。このまま一緒に寝ちゃう?」
「あ、いや、私は……」
「えへへ……寝よ?」
「あ、はい――」

指と指の間に、絡めるように入り込む指。
悪戯っぽく笑う彼女の笑顔が脳裏に焼き付いていた。

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